私は両親が早くに離婚してから、祖父母と一緒に暮らしてきました。
祖父は早朝のウォーキングを日課にしていて、元気そのものでした。
そんな祖父が尿トラブルに悩まされたのは、8年前。祖父が72歳の時でした。
それまで自分の事は全て完璧にこなす祖父でしたが、少しずつ出来ない事が増え、家族が付き添うようになっていったんです。
人は、昨日出来ていた事が、こんなにも簡単に出来なくなるのだと、身を持って感じた体験談です。
きっかけは、なかなか起きてこない祖父を心配し、寝室に呼びかけに行った時の事でした。
布団の上で放心状態になって座っている祖父がそこには居たのです。
祖父自身も何がなんだか分からないようで、どうしたの? と聞いても、うまく説明が出来ない状態になっていました。
今思えば、祖父は軽いパニック状態になっていたように思います。
下着やパジャマはもちろんのこと、足元にある布団がびしょびしょに濡れ、畳にまで染み込む程広がっていました。
長時間経過していたのか、一部は染み込み、シミへと変わっていました。
最初は、この排尿が病から来るものとは知らず、当時悩まされていた手足の痺れからくるものだと考えていました。
しっかりした祖父の事ですから、まさか尿漏れだとは思わず、飲み物をこぼしたの? それとも昨夜の雨の影響での雨漏り? と、私の頭には「?」マークがいくつも並んでいました。
悲しそうに落ち込んだ祖父を見て、祖母と一緒に祖父を励まし続けました。
私達家族が嫌な顔をしてしまうと、祖父は今以上に落ち込むと感じたので、出来るだけ明るく振る舞おうという気持ちで接していました。
最初の尿トラブルから毎日のように失禁するようになり、これは認知症の始まりではないかと大きな不安が頭をよぎる日々…
次第に手足も思うように動かせなくなるのを見て、このままだと入院をする事になるかもしれないと、最悪の事態も考えていました。
今まで病知らずの自分の大切な祖父が、病に直面していると知ったとき、私の心に強い葛藤があらわれました。
手足の震えもあり、祖父のかかりつけの内科で相談したところ、長年飲み続けている薬の副作用ではないかという事でした。
祖父は若い頃、極度の不眠に悩まされていた事があったようで、その頃から睡眠薬を処方されていたのです。
若い頃は処方されていた薬で問題はありませんでしたが、年齢と共に徐々に身体をむしばみ、健康である部分まで影響されていったのではないかとのこと。
また、認知機能の低下も尿トラブルの原因である事が多い為、一つの事を原因と考えず、他の原因も見つけるようアドバイスを受けました。
その後すぐに泌尿器科を受診。
祖父の病名は、機能性尿失禁と診断されました。排尿機能は正常にもかかわらず、身体運動機能の低下や認知症が原因でおこる病気です。
幸い認知機能は正常でしたので、尿失禁の薬と上手に向き合うようアドバイスを受けました。
普段服用している薬と合わせて飲まないといけないので、祖父の身体に負担がかかるのでは? と内心心配していました。ですが祖父のケースでは、薬物療法以外の治療法は考えにくいとのこと。
機能性尿失禁に伴う抗コリン薬の処方、それに加えて尿漏れシート・尿漏れマット・大人用紙おむつ・尿瓶を常備する事となりました。
祖父は薬の影響で喉の渇きをうったえる事が多く、大量に水を飲んでいましたが、睡眠時は水分量を控えるよう対策をしました。
食事は塩分が強いと喉が乾くので、塩分を控えた食事と、排尿をスムーズにする効果のある食物繊維が豊富な食べ物を食卓に並べています。
祖父が機能性尿失禁と診断されてから、8年が経ちますが、早期の治療のおかげで日常生活に支障のない生活が送れています。
以前は夜中に何度も目が覚め、「残尿感がある」「いつの間にか出ている」と言って悩んでいました。その為、睡眠導入剤を服用しているにも関わらず、睡眠不足に陥っていたのです。
そして、夜中に起きる事により、日中に寝る事も増えていました。
しかし最近では投薬治療の効果からか、尿失禁がなくなったわけではありませんが、失禁する回数は格段に減ってきました。
それと同時に昼と夜の逆転生活で覇気がなくなり、ネガティブな発言が増えていた祖父にようやく笑顔が…
年齢と共にいろいろな機能も衰えるので、適度な運動は必須! 少しでも現状維持になればと、早朝のウォーキングも再開し、無理のない運動の成果も出ていると思います。
祖父の経験を通して知ったのは、尿トラブルを抱えている方が意外と多く、年齢も様々であることです。
慢性的な尿トラブルは、本人やサポートする家族も、ストレスを抱えて疲れてしまいます。
全国的に泌尿器科も増え、治療法も様々用意されているので、自分に合った治療法が必ず見つかりますよ。