私は整形外科に看護師として勤めています。多く入院しているのは運動器の障害がある患者さんです。
どの患者さんも動くと疼痛があるため、いつでもゆっくりとしか動けません。
そうなるとすぐに問題になってくるのは、尿トラブル。
今回は私の体験の中から、70歳の圧迫骨折の女性が尿漏れを解決した話をご紹介します。
その患者さんが尿漏れに困っていることに気が付いたのは、排泄介助をしているときでした。
排泄介助といっても、患者さんからはもうベッドサイドのポータブルトイレを自分で使いたいという希望があったので、ズボンやパンツの上げ下げがメインの介助です。
ナースコールで呼ばれ、訪床するとトイレに行きたいとのこと。
最近バルーンが抜けたところなので尿意もあいまいだったこともあるのか、ズボンとパンツを下げたときにはもう尿漏れをしていました。
パットもパンツも尿汚染しており、患者さんは本当に困った顔で「ごめんなさい」と言われました。
患者さんは動くたびにある腰痛と、でも自分の排泄行為だけは自立したいという思いがあるのに尿漏れを繰り返ししてしまうことを「情けない」と言っておられました。
私は仕事柄、こういった尿漏れなどのトラブルに遭遇することはよくあります。
今回圧迫骨折をした女性は、今まで誰の助けも借りずに出来た排泄行動が自分だけでは出来なくなったことに、とても悔しい、情けないという感情を抱いているようでした。
私たちにとっては職場である病院で日常的にあることですが、患者さんにとったら「自分のこと」です。尿漏れパッドをつけるだけでは、患者さんの精神的苦痛を軽減させることにはならないと感じました。
私自身も、尿漏れするからといってもし尿漏れパッドを渡されたとしても、尿漏れ時のあの不快感や情けない気持ちはいっさい軽減しないでしょう。
おそらく患者さんも同じ思いだと感じ、私はどうにかしてこの患者さんの精神的苦痛を解決したいと思いました。
その患者さんは圧迫骨折になってから全く動けなかったので、尿道から膀胱に管を入れて尿を排出するためのバルーンを一時期留置していました。
その期間は約2週間ほどで、その間は膀胱に尿が貯留することがないため、尿意が鈍くなっていると考えられます。
そのため、バルーンを外してからは、ある程度膀胱に尿が貯留していてもトイレに行きたいと思うまで時間がかかり、尿意を感じたときには我慢出来ない量になっている可能性があります。
また圧迫骨折は身体の中心部の障害のため、ささいな動きであっても疼痛を感じてしまいます。
どうしても疼痛時に腹圧がかかってしまうことも尿漏れを起こす原因の1つと考えられます。
疼痛のために動作も緩慢になり、すぐに排泄動作に移ることができないことも関係していると考えられます。
私は尿漏れ対策として、「時間誘導」「括約筋を鍛える」「疼痛コントロール」という3つを試みました。
時間誘導では、まずどのぐらいの間隔でトイレに行きたくなるのかを調べるために患者さんの排泄表を作り、トイレに行くたびにチェックをしていました。
尿漏れは毎回ではなく、尿漏れしない日もあったので、そのデータを集計しました。
次に外尿道括約筋を鍛えることを目的に、トイレに座ったら一回は尿を我慢するという動作を患者さんに伝えました。
最初は「難しい」と言っておられ、なかなかうまくいきませんが、徐々に我慢ができるようになりました。
そして、患者さんの疼痛コントロールです。
コルセットが完成すれば徐々にリハビリをして動いていくので、それと同時進行で鎮痛薬を使うようにしました。
それによって動いたときでも軽度の疼痛ですみ、腹圧がかかりにくく尿漏れも起きにくいと考え、適宜鎮痛薬を使用していました。
患者さんは、現在はもうしっかり自分で動くこともでき、自主的に歩行練習もされています。
しかしまだ腰痛があると言われているので、疼痛コントロールと外尿道括約筋を鍛えるトレーニングは続けているそうです。
バルーンも抜けてしばらく経過し、尿意もしっかりあると言われているので、時間誘導の必要性は低くなったため集計はもうしておりません。
患者さんは「あの時は本当に嫌なことしかなかった」と尿トラブルについて語っておられます。
ただ、今でも動き方によっては疼痛があって尿漏れしそうになるとのことで、尿パッドはつけておられます。
あくまでも尿漏れした時の救済として使用しているので、不快感ではなく安心感があると言われていました。
私たちは普段は何気なく排泄動作を自立して行っていますが、なにか病気や怪我をしたときに必ず困るのが尿漏れなどの排泄トラブルです。
身体は不自由な状態であっても意識がはっきりしている場合は、なおさら「排泄行動に人の手が必要」になることが精神的苦痛になります。
今回の患者さんの尿トラブルは解決しましたが、もし尿漏れなどによって精神的苦痛を継続して感じると、飲水量の減少を引き起こしたり、生活の質を低下させてしまうことにつながります。
患者さんは口に出して苦痛を言うこともありますが、そうでない場合もあります。
できるだけ早急に患者さんが尿漏れしている原因をつきとめ、時間誘導や疼痛コントロールなどの対策を取ることが効果的です。